なにわのアルゴ座

星見が好きな大阪のおっちゃんのブログです

デカすぎる深すぎる 望遠鏡の歴史

望遠鏡を使っていると星や宇宙、機材についてもっと知りたい欲求だとか疑問が自然に発生します。そういうのを解決する一番古典的な方法は「よく知っている達人に尋ねる」か「本を読む」という行動です。

残念ながら天文好きの友達や気軽に聞ける人というのが周りに一人もいないので、本を買ったり借りたりして疑問解消を目指しています。ネットではもっと簡単に色んな情報の答えとも言えるものがズララーっと出てきて便利なのですが、ただそれだけが解消したことで終わることが多く、それからの繋がりも派生もできないことが少々勿体無いのです。それが悪いわけじゃないですがただの答え合わせをしてる感が強く、本という筆者の思想が一貫している連続性のある紙媒体の情報提供物というのは、やはり物を調べる、知りたいということに関しては今のところはまだ最適だと感じます。

読めば読むほど、知れば知るほど新しい「じゃあこれはなんで?」とか「すごいな」というのが発生し、人間の探究心からくる情熱に素直に感動したり、根性や意地かと思うような行動や結果に今更ながらに感心して気がつけば最初の疑問が何だったのかわからなくなるスパイラルに入ったりしています。僕などが浮かぶ疑問や知りたいという気持ちなどは、何十年、何百年前に数え切れない人が同じことを感じ、それを今からすれば粗末な機器を駆使して解決し、記録として残していることがほぼ100%ですので、過去の先輩が残した轍を歩んでいるという気持ちになり(勝手にですが)なんとなく嬉しくなったりもします。

 

プロジェクトが国家規模になるとすごいよなぁという次元が桁違いに変化します。

感心の代表的なものは時代的にもやはりアポロ計画。半世紀も前に懐かしのトグルスイッチがまだいっぱいついている正に昭和イメージの宇宙船を何回も何回も打ち上げたあれは、一般人の想像可能な範囲を超え、更に世界中でアームストロング船長の一挙手一投足に固唾を飲んだ、そういう事実がとにかく圧倒的であり米ソの意地の張り合いがここまでしてしまうかと思う面もあり、色んな意味でものすごいです。(当時僕は赤ん坊だったのであとから記録映像を見てのことなのですが)

 

地上でも同じく凡人の想像を遥かに超える構造物の制作が数百年前から繰り広げられているのも、これもまた驚き感心し感動します。(写真は後述します)

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僕ら一般人が買えるそれなりに手が出せる金額でそれなりな性能の望遠鏡を求めるときにでも、コレかアレかと毎夜真剣に比較検討し、買った後でも「性能には十分納得しているが、もしアレだったらどう見えていただろう」などと考えてしまうほどコンシューマー向けでもピンキリで色んな種類の望遠鏡があります。それは望遠鏡で宇宙を見るようになってから数百年の間人類がより良く見たい、と模索してきた結果からの研究的、商業的だったり教育的だったり意図は様々だろうが、ハイエンドの世界からの一般人へのおこぼれでもありますが、今の中華製の望遠鏡でもガリレオケプラーの時代よりは遥かに良く見える望遠鏡がネットでポチれる時代になっています。(そもそも天体系ショップが日本中で数えるほどしかなく、同じ光学系でも顕微鏡市場というのは更に少なく、ネット商売というのは買う側としても売る側としてもありがたい進化です)

 

この望遠鏡の歴史と成り立ちが本当に面白い。これをひとつひとつ紹介すると光学の歴史も入ってくるのでもう吉田正太郎さんのように本が山ほど書けてしまう(もちろん書くには圧倒的で正確な知識がいりますが)。そしてその間に顕微鏡や写真や映像分野、観測、機器製造、硝材、発明など様々なジャンルで数々の天才が現れ各進化が止まらず今に至ります。このあたりが実に興味深く人間的で面白いのです。

当時の時代背景や政治だとかいろいろ絡み合ったりしてただ望遠鏡の歩みだけを抜き出してもいびつなものとなってしまうのですが、当時の価値観や世情というのもからんで進化をとげてきた望遠鏡や光学は、読めば読むほど「当時めっちゃ大変だったんだろうなぁ。。」とか「国のトップやスポンサーに気を使ったりして何時の世もめんどくさいのは変わりないんだなぁ。。」とかいろいろでなのであります。

 

数々の天才の一人、ウィリアムハーシェル天王星の発見者としても赤外線の発見者として天体好きなら当然耳にしたことがあるでしょうが、もともと音楽教師だった彼が天文にのめり込んで大活躍を始めたのが1780年くらいからというから本当に恐れ入ります。現代の一般人が18世紀の世の中、と言われてもふつう頭に浮かびません、無理です。電気もまだ無い時代なんです。当然この時代にはセレストロンもミードなければタカハシなど望遠鏡メーカーが存在しません、ハーシェルは自宅に主鏡用の炉まで作り望遠鏡を製作、観測していたそうですのである意味アマチュア天文家が国のトップはおろか世界的にも認められるハイエンドまで上り詰めた奇跡的第一号ともいえると思います。ハーシェルは望遠鏡を何百基も作ったそうなのである意味望遠鏡メーカーの先駆けかもしれないですね。

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ハーシェルの望遠鏡、と検索すればデーン!とこういう現代の我々が圧倒されてしまうのがよく出てきます。望遠鏡と言われてイメージする範囲を楽勝で超えています、家を建てるより大変ですね。この時代の望遠鏡はそもそも単位がすごいです、メートル単位で本当に規模が桁外れ。

ハーシェルの望遠鏡だけでなく他の文献などを見てもどれもこのくらいの大きさのようです。こんなバカでかいもので見ていたのかぁ。。。(それを自宅の前とか裏に作ってしまったり...)と絶句する、そんなメガサイズの望遠鏡のオンパレードなのです。当然お金もかかりますから色んな意味で裕福な人が時代の最先端の望遠鏡を設置することになるのですが、例えばお城の城壁から頭を覗かせるようなとてつもない巨大構造物をたぶん個人が作っちゃうわけです。

で、やっぱりちょっと気の毒なのが性能ですね。当時としては最先端・最新鋭とはいえ肝心の主鏡が金属ですから錆びるので毎観測前に磨かなきゃいけない、まだ反射効率せいぜい20%~30%程度だそうです、今は安物ニュートンの主鏡でも90%以上、ミラーダイアゴナルなどでは通常で92%前後、良いものでは99%反射というのが労せず手に入りそういうレベルが普通だと思っていましたので、現代の一般人が集光できる1/5の光量でハーシェルはメシエを凌駕する何千もの星雲を観測するわけです。もちろんハーシェルだけでなくその時代の観測は皆そうだったということですね。これはもう根性というか凄まじいパッションです。ですが当時の人は「もっと光を」と願ったでしょうがそれが当時の最先端であり限界であり、それを使うしかなかったわけでしょうが、天体への情熱エネルギーは今も昔もすごい人は本当にすごいです。

反射望遠鏡では1850年前後に銀メッキが技術的に可能となり現在のようなガラスにメッキの主鏡が作られるようになり性能は飛躍的に向上することになります。もちろん屈折望遠鏡も技術の進歩の結果1800年後期にはアメリカで1mを超えるこれまた大砲かと思う望遠鏡が出現していたりします。

 

 

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これはBBCが企画したのか詳細は英語だったのでよくわかんないのですが、どこかの大学か学校かの構内にハーシェルの時代の望遠鏡を再現したときの画像です。さすがに足場とかは現代の足場で、筒は下水管だそうです。大きさなどは絵と比べると少し小さいかなとは思いますがこういう企画は楽しいですね、ぜひ覗いてみたいです。今もそのままここに残してるそうです。

 

さて前後しますが、一番最初の白黒の画像は圧巻ですね。

アメリカはカリフォルニアのパロマー天文台の200インチ(主鏡5mオーバー)の完成式典のときの画像だそうです(吉田正太郎さんの本から)。パッと見だけで一般人はこれを望遠鏡だ、天文台だな、と認識することはほぼ不可能です、造船所かどこかの落成式かなと言われても納得してしまうでしょう。とんでもなく大きな構造物の下に黒いつぶつぶがあり、説明文を読んで、あぁ、これが人間か。え?これが望遠鏡??。。。と驚愕する大きさです。とにかく巨大も巨大。これが第2次大戦後ほんの数年の1948年のことです。戦争が終わって数年のことなのにこんなバケモノ望遠鏡を作るパワーを持っている国と戦っていたのですね。。。(開戦前から作ってて戦中は一時中止、戦後に再開して完成、だそうです)

この頃の日本はというと 美空ひばりデビュー、GHQが祝日の国旗掲揚を許可、東京裁判判決、太宰治が自殺、などと書けばなんとなく時代が想像つくかと思います。僕も生まれていませんので記録映像などから当時を想像するしかないのですが。

ちなみにこのパロマー天文台の近くにはかのハッブルさんが赤方偏移を発見したウィルソン山天文台があります。アメリカのハイエンドは頭脳も資金も桁外れだったので、金持ち財団や協会は次々に天文施設や機材への出資投資をして、頭の良い人はそれを使って世界的(宇宙的)発見などができたわけですね。潤沢で溢れるお金の使い道としては最高に効果的で特に日本の金持ちはお手本にしてほしく思ってしまう良例です。望遠鏡の名前には出資者の名前が刻まれ大発見と共に後世に残る仕組みになっているのはギブアンドテイクの仕組みから当然ですね。

 

日本は半世紀後の1999年に、単一鏡では世界最大の8mオーバーのすばる望遠鏡をハワイのマウナケア山頂に設置します。能動光学補正がされているので主鏡はとんでもなく薄く軽いそうです。映像を見ましたがよくまぁこんなこと考えついたなぁ、、と感心してしまう仕組みです。

 

 

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また、ハーシェルの名前を冠した宇宙望遠鏡も21世紀初頭に打ち上げられました。ハーシェルにちなんでますので赤外観測機だそうです、粋ですね。ハッブル望遠鏡のようにずっと使えるのかと思いきや冷却材を使い切ったら終わりで、今は運用を終えているそうです。任務が完了したらどうするのでしょうね、漂っているのでしょうか。

 

こんな最新テクノロジーをこれでもかとぶちこんだ望遠鏡を、ハーシェルや過去の天才達が見たり観測したりしたら、いったいどんな感想を持ち、そしてどんな観測をするのでしょう。

自分の望遠鏡で地上から宇宙を好き勝手に見るのも楽しいのですが、こういう天才たちの業績と、次々と判明していく宇宙の仕組みをあれこれと読んで学んでいくのも、自分にはかけらすらもフィードバックできるものはありませんが、ただただ楽しくワクワクすることです。

すごい人、すごい機材、すごい結果、というのはどうもやっぱり細胞を震わせるなにかがあるのでしょうね。